性感染症とは
性行為によって感染する疾患です。性器や泌尿器、肛門、口腔などにウイルスや細菌・原虫などが触れることで感染・発症します。特に気を付けたほうがいいのは、クラミジアや淋病、カンジダ腟炎、尖圭(せんけい)コンジローマ、性器ヘルペス、トリコモナス腟炎、梅毒、エイズ(HIV)などの感染症です。これらの感染症は、オーラルセックスやアナルセックス、キスだけでも発症します。
治療はご自身だけでなく、パートナーの2人で一緒に行いましょう。完治しないと再発する可能性があります。少しでも心当たりがありましたら、まずは当院へご相談ください。
主な性感染症
クラミジア感染症
潜伏期間は3日~7日間です。腟や咽頭から感染するので、セックスだけでなくオーラルセックスから感染する可能性があります。クラミジアの原因であるクラミジア・トラコマティスは感染してから1~3週間で子宮頸管炎を発症します。この経過中に子宮、卵管を通過して腹腔内に上行感染して骨盤腹膜炎や肝周囲炎を起こす可能性もあります。非常に強い腹痛を起こし、入院治療が必要になる場合もあります。また、上行感染により卵管に癒着性変化を起こして、異所性妊娠や不妊症などの悪影響を及ぼすこともあります。妊娠中のクラミジア感染では流産、早産の原因になることもあります。
主な症状
不正出血や粘り気の強いおりもの、おりものの量が増える、下腹部痛、上腹部痛などの症状が出現しますが、無症状のまま進行するケースもあります。
咽頭に感染すると喉が炎症を起こすため痛みや腫れ、発熱、咳などの症状が出現します。女性の半数以上がクラミジアに感染しても自覚症状がないという方もいますので
リスク
卵管炎や骨盤内感染症などの原因になるため、将来の不妊・子宮外妊娠のリスクが高くなります。
また感染した状態で妊娠すると、産道を通過する赤ちゃんが感染し、肺炎や結膜炎を発症する可能性があるため、要注意です。
検査と治療
血液検査や抗原検査を行い、膣や子宮粘膜内にクラミジアがいないかを調べます。抗生剤を使った薬物療法を行います。
淋菌と一緒に感染するケースもあるため、同時に淋菌の検査も受けましょう。
淋病
淋菌によって発症する疾患で、潜伏期間は2~7日間です。
セックスだけでなくオーラルセックスやキスでも感染することから、近年では喉に感染する方が増加傾向にあります。
主な症状
男性が感染すると強烈な痛みが生じるので、比較的分かりやすいです。しかし女性が感染すると、自覚症状がほとんど現れません。
そのため感染に気付かず、知らず知らずのうちに進行させてしまっている方も多いのです。女性に現れる自覚症状としては、外陰部のかゆみや腫れ、黄色いおりものなどが挙げられます。
喉に感染した場合は、喉の炎症による痛みや腫れ、咳、発熱などが出現します。
リスク
女性の場合、自覚症状が乏しいまま悪化し、慢性化して子宮内膜炎や卵管炎、淋菌性膣炎などを発症させる可能性があります。
不妊症や子宮外妊娠のリスクも高くなるので、自覚症状がなくても検査を受けましょう。
検査と治療
おりものを採って淋菌の有無を確かめていきます。感染していると分かった際は、抗生剤点滴を用いて治します。
自己判断で治療を止めてしまうと、完治しづらくなるので、必ず医師の指示通りに服薬治療を続けていきましょう。
クラミジアと一緒に感染するケースもあるので、一緒にクラミジアの検査も受けることを強く推奨します。
マイコプラズマ、ウレアプラズマ感染症
淋菌によって発症する疾患で、潜伏期間は2~7日間です。セックスだけでなくオーラルセックスやキスでも感染することから、近年では喉に感染する方が増加傾向にあります。
主な症状
マイコプラズマ、ウレアプラズマは細菌の仲間です。尿路、腟の粘膜に付着した状態で生存しています。
性器や尿道に感染すると炎症を起こし、おりものの臭いが臭くなったり、外陰部の痒みや膀胱炎の症状がでる可能性があります。
腹膜炎により熱が出たり、腹痛が出てくることもありますし、それが原因で不妊症や子宮外妊娠が引き起こされる可能性もあります。また、流産や早産との関連も報告されています。
米国の調査では多くの健康な女性の腟内細菌フローラにもマイコプラズマ、ウレアプラズマが認められているとの報告もあるので、無症状の方は検査する必要はないとされています。
しかし、気になる症状があれば検査を受けることをお勧めします。
主な症状
マイコプラズマの定着率は増加傾向にあり、女性の方が定着しやすいことが示唆されています。マイコプラズマは他の細菌と併存、もしくは単独で腟炎を起こす可能性があります。
骨盤また、尿道炎を引き起こすという証拠はありませんが、腎盂腎炎の5%がマイコプラズマが原因である可能性が示唆されています。
ウレアプラズマとともに流・早産、早期破水での羊水中に検出されることがあります。絨毛膜膜羊膜炎の関係性が示されています。
一方、ウレアプラズマは尿道炎を引き起こします、また、母親のウレアプラズマの定着が妊娠中の早産率の上昇に関与している研究データもあります。
不妊症の男女と不妊症ではない男女を比較した研究では、不妊症の男女ともにマイコプラズマ、ウレアプラズマの検出率が高いことも示されています。
検査と治療
おりものを採取してマイコプラズマ・ホミニス、マイコプラズマ・ジェニタリウム、ウレアプラズマ・ウレアリチカム、ウレアプラズマ・パルバムを検査します。
テトラサイクリンやアジスロマイシンなどの抗生剤で治療します。
性器ヘルペス
性行為による感染だけでなく、ウイルスが付いたタオルなどに触れて感染するケースもあります。特に、初めて感染した女性の場合は、症状が強く現れやすいとされています。
治ってもウイルスが体内へ潜伏してしまうので、症状が再発する可能性もあります。
なお、再発した時の症状は、初めて感染した時よりも軽度です。
近年では、若年層の感染者数が増えています。
主な症状
数日~10日後の潜伏期間を経て発症します。発熱や身体のだるさ、皮膚の違和感、外陰部や腟の水疱、強い痛み、排尿痛・鼠径部の腫れなどの症状が現れます。
重症化すると歩行困難を引き起こし、水疱が破裂すると潰瘍が生じます。
検査と治療
血液検査や抗原検査で感染しているかどうかを確かめます。また、水疱や潰瘍を見て診断を下すことも可能です。
抗ウイルス剤を用いた薬物療法を行いますが、何度も再発する場合は、抗ウイルス剤の長期服用を続けていただきます。
尖圭コンジローマ
ヒトパピローマウイルス6型、11型によって発症する疾患です。潜伏期間は長めで、3週間~8か月とされています。治療を受けて治しても、再発する可能性があるため、コツコツ治療を受け続けていくことが重要です。
主な症状
外陰部や肛門の周り、腟内に、イボのようなものが生じます。進行すると小さいイボが密集し、カリフラワーみたいな形になっていきます。一般的には自覚症状が無い方が多いですが、大きさや発生部位によっては、黄色みがかったおりものが見られたり、痛みやかゆみを感じられる方もおります。
検査と治療
イボの組織を採って、顕微鏡でチェックしてから確定診断します。小さめのイボでしたら軟膏による治療や凍結療法で、大きめのイボの場合はレーザー治療や電気メスによる切除術で治します。当院では尖形コンジローマにたいしてイミキモドクリーム(ベセルナクリーム)の処方を行っています。
ただし、粘膜のある膣壁に発生したコンジローマに関しては“クリームが使用できません”ので、メスやRFメスでのコンジローマ切開術を行っております。
初回は保険適用(8,000円程度)です。コンジローマは再発しやすく、1度の切開では完治しない事が多いのも特徴です。2回目からは自費診療となり、自費診療ではコンジローマが「2個以下で7,000円」、「3~5個で12,000円」、「6個以上で17,000円」にて手術の対応が可能です。(全て日帰り手術が可能)
※自費価格は全て税込み
カンジダ膣炎
カビ(真菌)である、カンジダ・アルビカンスに感染することで発症します。カンジダは健康な人の身体に存在する菌ですので、普段は腟内で繁殖しません。
しかし免疫力・抵抗力が落ちている時に、感染しやすいのです。特に、糖尿病患者の方や妊娠中の方、抗生剤を使用している方は発症しやすいので、要注意です。
また、洗いすぎによって善玉菌がいなくなると、発症しやすくなります。
主な症状
かゆみが生じて、ポロポロした白っぽいおりものが多くなります。おりものが外陰部に付くとただれてしまいます。進行して慢性化すると、おりものが減ったり痛みやかゆみが残ったりしてしまいます。
検査と治療
おりものを採って培養検査を行ってから、確定診断を下します。
真菌によって発症するので、抗生剤では効果が得られません。
そのため抗真菌薬を処方していきます。
治療で症状が緩和された後も、真菌が完全になくなるまで、治療は続けていきましょう。
トリコモナス腟炎
トリコモナス原虫によって発症する疾患です。トリコモナス原虫が腟の中へ入ることで、感染します。感染すると腟内の自浄作用がうまく機能しなくなるので、他の感染症にもかかりやすくなります。
発症した際は、速やかに治療を受けましょう。
主な症状
黄色・緑色のおりものが増えたり、外陰部がかゆくなったりします。泡状で、かつ臭いがきついおりものが出てくることもあります。
リスク
進行すると外陰炎や尿道炎が起こり、排尿した時に痛みが生じます。
男性は感染しても自覚症状に乏しい傾向があるため、知らず知らずのうちにパートナーへ移してしまうケースも少なくありません。
検査と治療
採取したおりものを顕微鏡で調べ、原虫がないか確かめたり、核酸増幅検査をしていきます。腟錠や内服薬を使い、原虫を死滅させます。
治療期間は2週間ほど要しますが、長引く可能性もあります。
梅毒
性行為やキス、皮膚や粘膜の傷、輸血などから感染する疾患です。2010年以後、日本では梅毒の患者数が顕著に増加しているので、注意が必要です。
最近ではクラミジア感染症に次いで日本で2番目に多い性感染症となっています。少しでも気になる症状があれば検査をお勧めします。
感染した方が妊娠すると、胎盤を通過する赤ちゃんが感染し、重い障害を持って生まれてくる可能性も高まります。
主な症状
4期に大別されます。時期によって出現する症状も異なります。
第1期
10~90日とかなり長めの潜伏期間を経てから、症状が出現します。初期硬結(しょきこうけつ)ができ、それが潰瘍となります。
痛みは伴いません。潰瘍は数週間で消失しますが、痕が残ってしまいます。
第2期
感染後から3カ月以上経つと、梅毒特有の赤い湿疹が全身にできます。髪の毛がまだらに抜けていく梅毒性脱毛もみられます。
多くの方がこの段階で、発症に気付きます。
第3期
感染後から2~3年経過すると、筋肉や骨、内臓に「ゴム腫」という結節が生じます。ゴム腫はだんだん大きくなっていきます。
第4期
感染から10年以上経つと中枢神経系と心臓血管系まで侵され、大動脈瘤や大動脈中膜炎、進行麻痺、認知症症状が引き起こされます。
徐々に記憶障害や思考力の低下、全身麻痺、妄想を引き起こし、最悪の場合、命を落とします。
検査と治療
採血を行います、感染から6~8週間経過していないと正確に診断できないので、再検査を行うこともあります。
脂質抗体検査法(STS)であるRPR法とトレポネーマ抗体検査法であるTPHA法を組み合わせた検査を行います。主な治療法は、ペニシリンという抗生剤を用いる薬物療法です。筋肉注射(ステルイズ)や内服薬(サワシリン+プロベネシド)で治療していきます。
梅毒治療開始後24時間以内に頭痛、発熱、筋肉痛などの症状が出ることがあります。これは治療による反応(ヤーリッシュヘルクスハイマー反応)であり、抗生剤のアレルギー反応ではありません。この反応に対する予防法はありません。
RPRが梅毒の現在の活動性を反映するため、RPRを治療効果判定に使用します。RPRが治療開始前の4分の1に下がれば治癒したと判断します。治療後はSTS抗体価を定期的に追跡します。治癒後6ヶ月経過して16倍以上であれば、再感染と考えられます。治癒後6ヶ月、12ヶ月後のSTS抗体価で8倍以下であれば治癒したと判断します。
梅毒血清反応検査の評価と対応
TPHA陰性 | TPHA陽性 | |
---|---|---|
STS陰性 | 正常 感染初期(抗体陰性期) | 陳旧性梅毒(治療不要) |
STS陽性 | 生物学的偽陽性 感染初期 | 梅毒(要治療) 陳旧性梅毒(治療不要) |
- STS陽性、TPHA陰性の場合にはFTA-ABS法の追加検査を行います。
- STS定量法の抗体価が病勢を反映するので治療指標として用います。
- 定期的にSTS抗体価を追跡して、8倍以下を確認したら治癒
エイズ(HIV)
ヒト免疫不全ウイルスがヒトの免疫細胞に感染することで、エイズ(後天性免疫不全症候群)になります。HIVに感染すると、他の感染症のリスクも高くなります。
HIVに感染していて、かつ代表的な23疾患のいずれかを発症している場合は、エイズの診断が下されます。
感染経路
性行為などの性的接触による感染だけでなく、血液感染や母子感染などでも発症します。母子感染は分娩だけでなく、授乳を介して感染するケースもあります。
また注射器の共有によって血液感染するケースもあります。
主な症状
2週間ほどの潜伏期間を経た後に、発熱や身体のだるさ、筋肉痛、リンパ節の痛み・腫れ、湿疹などの症状が出現します。
自覚症状を伴わない方もいます、これらの症状が数週間続くと、いったん治まって無症状期に入ります。
無症状期
初期症状が数週間で落ち着くと、次は無症状の期間が数年~10年続くようになります。
この間でもHIVは体内で増え続けていますが、ヒトの免疫機能で症状が抑えられているため、自覚症状が現れないのです。
発症期
指定されている23疾患のうち、1つでも発症するとエイズの確定診断が下されます。
検査と治療
HIV抗体スクリーニング検査を受けていただきます。感染から3カ月以上経つと、正確な検査結果が得られます。
しかし感染してまだ日数が経過していない場合は、正確に診断できないので、再度検査を受けていただくことになります。
HIV抗体スクリーニング検査と、確認検査のどれか一つでも陽性だった場合、HIV感染だと確定されます。
完治はできませんが、エイズ発症を抑える治療を長期間受けていただければ問題はありません。医師の指示に従い、抗HIV薬を適切に飲み続けましょう。
また、エイズを発症しても、必ず命を落としてしまうわけではありません。その場合でも適切な治療を行い、苦痛を減らしていくことは可能です。
性感染症を防ぐには
体液・粘膜の接触が防げるコンドームは、性感染症の予防において、極めて重要なものです。コンドームを正しく着けると、感染のリスクは大きく下がります。
また「不特定多数との性行為」や「多数のパートナーがいる方との性行為」は、避けておくと良いでしょう。感染に自覚できていない場合は、お互い知らず知らずのうちに移し合っている可能性があるので、要注意です。
リスクの低い相手だったとしても、衛生面には気を付けていきましょう。さらに、屋外での性行為や、生理中の性行為も、感染リスクが高くなるので止めましょう。
性感染症は誰でもなり得る疾患です。無症状の場合でも、心当たりがあったら速やかに医療機関へ相談しましょう。早めに治療を受ければ受けるほど、楽に治すことができます。
また、パートナーも同時に治療を始めることも大事です。
徹底した治療を行い、再発と再感染の予防が必要となります。